はじめに
従業員が泣き寝入りしながら接客を続けている。そんな状態を放置し続けると、2026年10月以降は法律違反になります。
改正労働施策総合推進法により、2026年10月1日からカスタマーハラスメント対策が全事業主に義務化されます。従業員が1人でもいれば規模を問わず対象です。大企業だけの話ではありません。飲食店、小売店、サービス業を営む中小・小規模事業者も、今すぐ準備を始める必要があります。
この記事では、義務化の内容と、会社が講じるべき4つの具体的な対応を実務レベルで解説します。
カスタマーハラスメントとは何か

カスタマーハラスメントとは、顧客・取引先・施設利用者などから受ける言動のうち、社会通念上許容される範囲を超え、従業員の就業環境を害するものを指します。
具体的には以下のような行為が該当します。
- 商品のクレームを口実に長時間拘束する
- 誠意を見せろと繰り返し謝罪・土下座を要求する
- SNSや口コミに虚偽の内容を投稿すると脅す
- 電話口で怒鳴り続ける・暴言を吐く
- 根拠なく値引きや無料対応を要求する
対面だけでなく、電話・メール・SNS経由の言動も対象です。BtoB取引における取引先からのハラスメントも含まれます。
厚生労働省の調査によると、過去3年間にカスハラの相談があったと回答した企業の割合は27.9%。2020年の調査から8.4ポイント増加しており、現場での実態は急速に悪化しています。
出典:政府広報オンライン
義務化されると何が変わるか
2026年10月1日以降、事業主はカスハラを防ぐための雇用管理上の措置を講じる義務を負います。
ポイントは3点です。
努力義務から法的義務へ格上げ
これまでパワハラ・セクハラと異なり、カスハラは事業主の法的な対処義務がありませんでした。今回の改正でその位置づけが変わります。
措置の不備は行政指導の対象になる
義務を果たさない場合、厚生労働大臣による指導・勧告の対象になります。勧告に従わない場合は企業名が公表される仕組みです。
従業員からの相談対応が義務化される
被害を申告した従業員を守れなかった場合、会社の安全配慮義務違反として民事上の責任を問われるリスクも生じます。
会社がやるべき4つの対応

厚生労働省が2026年2月に告示した指針では、事業主が講ずべき措置を4つの柱で整理しています。
方針の明確化と周知
まず会社としてカスハラを容認しない立場を明確にし、全従業員に周知します。
就業規則や服務規律に下記のような文言を追加してください。
当社は、顧客等からのカスタマーハラスメントに対し、組織として毅然と対応します。従業員は一人で抱え込まず、速やかに上長または相談窓口に報告してください。
周知方法は、社内回覧・朝礼での読み合わせ・掲示板への貼り出しなど、現場の実態に合わせて選んでください。文書を作って終わりでは不十分です。
相談窓口の設置
被害を受けた従業員が報告しやすい体制をつくります。
従業員規模が小さい場合、専任の担当者を置かなくても問題ありません。社長に直接報告する・総務担当に連絡するといった簡単な仕組みでも、指針の要件を満たせます。
窓口を設けたことを従業員に伝えなければ意味がありません。何かあったらすぐ報告してほしいと口頭で伝えるだけでなく、雇用契約書や社内規程に明記しておくのが確実です。
対応マニュアルの整備
カスハラが発生したときにどう動くか、事前に手順を決めておきます。
最低限盛り込むべき内容は以下の4点です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対応の打ち切り基準 | 暴言・脅迫が続く場合は通話を切る、退店を求めるなど |
| 証拠の保全方法 | 通話録音・クレーム内容の記録フォーマット |
| 組織的対応の徹底 | 従業員個人に押しつけず、上長・会社が前面に出る |
| 外部連携先 | 弁護士・警察・社労士への相談ルート |
飲食業であれば、クレームが長時間化した場合は店長が交代で対応するといった具体的な手順を決めておくだけで、現場の混乱が大きく変わります。
プライバシー保護と不利益取扱いの禁止
相談した従業員が不利益を受けないよう、明示的に禁止することが求められます。
- 相談内容を本人の同意なく第三者に漏らさない
- 相談・協力を理由とした降格・シフト削減・嫌がらせを禁止する
この点を就業規則や服務規律に記載し、従業員に伝えておくことで、報告のしやすい環境が生まれます。言っても無駄という雰囲気を先に断ち切っておくことが、対策全体の土台になります。
中小企業がつまずきやすい落とし穴
規程を作れば終わり、という認識が最も危ない対応です。
実際、パワハラ・セクハラ対策が義務化された際も、就業規則に一文追加しただけで対応完了とした企業が多くありました。カスハラについても同じ轍を踏む企業が出てくることが予想されます。
義務化への対応として最低限必要なのは次の3点の組み合わせです。
- 規程・就業規則への明文化
- 従業員への周知
- 相談があった場合の初動フローの確認
この3点が揃っていない状態で被害が発生すると、会社の対応不備として問題が大きくなります。
今すぐ始めるチェックリスト
義務化まで半年を切っています。現在の自社の対応状況を確認してみてください。
□ 就業規則にカスハラを容認しない旨を明記している
□ 全従業員に方針を周知している
□ 相談窓口が誰であるかを従業員が知っている
□ カスハラ発生時の対応手順が決まっている
□ 相談者のプライバシー保護と不利益取扱い禁止を規程に記載している
まとめ
カスハラ対策の義務化は、従業員を守るための制度です。対応を後回しにした場合、従業員の離職リスクが高まるだけでなく、行政指導・社名公表・民事上の責任といった経営リスクも現実になります。
まずは就業規則の確認から始めてください。現在の記載内容でカスハラへの対応方針が読み取れるかどうかを確認し、不足があれば追記するところから動き出せます。
自社だけでの対応が難しい場合は、社労士への相談も選択肢のひとつです。就業規則の作成・改定・従業員への説明サポートまで、専門家と一緒に進めることで確実に義務を果たせます。
社労士が外部相談窓口になるメリット
相談窓口を社内だけで完結させようとすると、担当者が被害従業員と日常的に顔を合わせる立場になり、報告しにくい空気が生まれやすくなります。社外の専門家が窓口を担うことで、この問題を回避できます。
社労士が外部相談窓口を担う場合、主に3つの利点があります。
労働法・ハラスメント法制の専門知識がある
カスハラが法的にどう評価されるか、会社としてどこまで対応義務があるかを判断できます。現場だけでは判断が難しいグレーなケースも、根拠を持って対処できます。
従業員が話しやすい中立的な立場
社内の人間関係に縛られないため、被害従業員が事実を正直に話せる環境をつくりやすくなります。
就業規則・規程との整合性を保てる
相談内容をもとに就業規則の改定や対応マニュアルの見直しが必要になった場合、そのまま手続きまで一貫して対応できます。
相談・次のステップ
では、就業規則の整備・カスハラ対応規程の作成・従業員向けの説明対応をサポートしています。カスタマーハラスメントに対する外部相談窓口サービスも承っています。費用は都度お見積りいたしますので、お問い合わせフォームからご連絡ください。
