はじめに
健康診断はちゃんとやっているけれど、ストレスチェックはまだ手をつけていない。そんな声を従業員10〜30人規模の経営者からよく耳にします。
2025年5月、労働安全衛生法が改正され、これまで50人未満の事業場には努力義務にとどまっていたストレスチェックが、全事業場への義務化が決定しました。施行は最長2028年5月までに政令で定められる予定ですが、準備に時間がかかる制度であるため、早めに実態を把握しておくことが得策です。
この記事では、小規模企業の社長・経営者に向けて、ストレスチェックの基本的な仕組み・費用相場・実施手順・よくある疑問を実務に即して解説します。
ストレスチェックとは何か、なぜ義務化されたのか
ストレスチェックとは、従業員がどの程度のストレスを抱えているかを把握するための定期的な検査です。厚生労働省が定める57項目の標準的な質問票、職業性ストレス簡易調査票を用いて、年1回実施します。
制度の目的は2点です。
- 一次予防 メンタルヘルス不調の発症前に高ストレス状態を検知し、従業員本人のセルフケアを促す
- 集団分析 部署・チーム単位でのストレス傾向を把握し、職場環境の改善につなげる
これまで50人以上の事業場には2015年12月から義務があり、毎年実施されてきました。50人未満の事業場は努力義務扱いだったため、対応している企業とそうでない企業に大きな差がありました。2025年5月の法改正でこの格差が解消され、全事業場に義務が課されます。
施行時期は政令で定められる予定で、最長2028年5月が期限です。厚生労働省は2026年度中に小規模事業場向けのマニュアルを公表する方針を示しており、施行に向けた動きは加速しています。
義務化で何が変わるか
50人未満の事業場がストレスチェックを義務として実施する場合、以下が必要になります。
| 必要な対応 | 内容 |
|---|---|
| 実施者の選定 | 医師・保健師・一定の研修を修了した看護師または精神保健福祉士 |
| 年1回の実施 | 全従業員が対象(受検は任意) |
| 結果の本人通知 | 実施者から本人に直接通知(会社が結果を見ることは原則できない) |
| 高ストレス者への面接指導 | 本人が希望した場合、医師による面接指導を1か月以内に実施 |
| 集団分析 | 部署・チーム単位の集計結果を出し、職場環境改善に反映 |
| 社内規程の整備 | 実施方法・守秘義務・不利益取扱い禁止を明記した規程の作成 |
なお、50人未満の事業場については、労働基準監督署への報告義務は課さない方針です(負担軽減の配慮)。この点は、50人以上の事業場が毎年報告書を提出しなければならないのと異なる扱いになります。
ストレスチェックの費用相場
経営者が最も気になる点のひとつが費用です。外部委託した場合の費用相場は、実施形式によって大きく異なります。
外部委託費用の目安
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 基本料 | 20,000円〜 |
| 実施費用(1人あたり) | 300〜1,000円 |
| 集団分析費用 | 無料〜10万円(業者による) |
| 高ストレス者への面接指導(1人あたり) | 1万〜5万円 |
たとえば、従業員20人の会社がWeb受検で外部委託した場合、実施費用だけであれば6,000〜2万円程度が目安です。紙受検を選んだ場合は印刷・配布・回収・集計のコストが上乗せされるため、Web受検よりも割高になります。
面接指導は全員が受けるわけではなく、高ストレス判定が出た従業員が希望した場合のみ発生します。小規模企業では対象者がゼロのケースも珍しくありません。
無料で実施できる方法
厚生労働省が提供する無料のストレスチェックプログラム(労働者の心の健康の保持増進のための指針に対応)も存在します。このプログラムは社内ネットワークでの使用を想定した設計であるため、外部からURLアクセスするだけの運用はできません。IT環境の整備コストが別途かかる場合があります。
出典:厚生労働省版ストレスチェック実施プログラムダウンロードサイト
50人未満の小規模事業場には、地域産業保健センターによる無料支援も用意されています。全国約350か所に設置されており、医師・保健師への相談・面接指導の実施を無料で依頼できます。産業医を選任していない会社にとっては、まず地域産業保健センターに問い合わせるのが現実的な最初のステップです。
ストレスチェック実施の手順

義務化に向けて何から手をつければよいか、5ステップで整理します。
ステップ1:実施者を決める
ストレスチェックは、医師・保健師・一定の研修を修了した看護師または精神保健福祉士が実施者として検査を担当します。事業主本人や人事担当者は実施者にはなれません。
50人未満の会社で産業医を選任していない場合、外部の実施機関(クラウドサービス・専門業者)に委託するか、地域産業保健センターを利用するのが主な選択肢です。地域産業保健センターでは、ストレスチェックの実施者を確保するための助言や支援を受けることができます。
ステップ2:社内規程を整備する
ストレスチェック制度を実施するにあたり、以下の事項を社内規程として文書化する必要があります。就業規則への記載は必須ではなく、実施規程は労働基準監督署への届出不要で作成できます。
社内規程に盛り込むべき内容の例
- 実施時期・頻度
- 実施者の氏名または役職
- 結果の通知方法・守秘義務
- 高ストレス者への対応フロー
- 受検を理由とした不利益取扱いの禁止
厚生労働省のWebサイトでWord形式の規程例が公開されており、これをベースに自社の状況に合わせて編集するのが最も手間がかかりません。
ステップ3:従業員に周知する
実施前に、従業員に対して以下を説明します。
- 受検は任意であること(強制はできない)
- 結果は実施者から本人に直接通知され、会社は同意なく見ることができないこと
- 高ストレス判定が出た場合の面接指導の流れ
- 受検・結果を理由に不利益な扱いをしないこと
特に会社が結果を見ないという点を丁寧に伝えることで、受検率が上がります。逆にこの説明が不十分だと、怖くて正直に回答できない・受けたくないという反応が出やすくなります。
ステップ4:実施・結果通知
ストレスチェックを実施し、結果を実施者から本人に直接通知します。会社が受け取れるのは、本人の同意があった場合のみです。
高ストレス者と判定された従業員が医師との面接指導を希望した場合は、申し出から1か月以内に実施しなければなりません。
ステップ5:集団分析と職場改善
集団分析では、部署・職種・年代別などの集計結果をもとに、職場のストレス要因を把握します。20人未満の小規模な集計単位は特定個人が特定されるリスクがあるため、分析単位に注意が必要です。
分析結果を職場改善につなげることが制度の本来の目的です。業務量の偏り・コミュニケーションの課題・職場環境の問題など、数字として見えることで、経営者が動きやすくなります。

よくある疑問
Q1. 産業医を選任していない会社はどうすれば実施できますか?
地域産業保健センターを利用するのが最も現実的です。全国約350か所に設置されており、50人未満の事業場向けに無料でストレスチェックの相談・実施支援を行っています。外部のクラウドサービスに委託する方法も広く使われており、費用は従業員1人あたり数百円〜1,000円程度です。
Q2. パートやアルバイトもストレスチェックの対象になりますか?
継続して雇用し、常態として使用している状態であれば、週1日しか出勤しないアルバイトであっても従業員数のカウントに含めます。ストレスチェック自体は全従業員が対象ですが、受検はあくまでも任意です。
Q3. 派遣社員はどちらの会社が実施義務を負いますか?
派遣社員については、派遣元事業主が実施義務を負います。派遣先の事業場の人数カウントには含まれません。
Q4. 受検しなかった従業員がいた場合、会社に罰則はありますか?
受検は従業員の任意であり、受検しないこと自体は問題ありません。会社がストレスチェック制度そのものを実施しなかった場合(義務化後)は、労働安全衛生法違反として罰則の対象になります。
Q5. 就業規則への記載は必要ですか?
就業規則への記載は義務ではありません。また、社内規程として実施方法・守秘義務・不利益取扱い禁止を文書化しておくことは必要ですが、労働基準監督署への届出も不要です。
まとめ
ストレスチェック義務化の要点をまとめます。
- 2025年5月の法改正により、50人未満の全事業場への義務化が決定。施行は最長2028年5月まで
- 実施者は医師・保健師などの有資格者が必要。事業主や人事担当者は担当不可
- 外部委託の費用目安は1人あたり300〜1,000円。地域産業保健センターの無料支援を利用することもできる
- 社内規程の整備が必要(就業規則への記載は義務ではない)
- 結果は本人への直接通知が原則。会社は同意なく見ることができない
施行まで数年の猶予があるとはいえ、規程の整備・実施機関の選定・従業員への説明には一定の時間がかかります。特に産業医を選任していない事業場は、地域産業保健センターへの問い合わせを早めに行うことをお勧めします。
弊所への相談・次のステップ
弊所では、ストレスチェック制度の社内規程作成・就業規則との整合性確認・従業員への説明資料の準備をサポートしています。外部実施機関の選定にあたっての相談も承っています。
まずはお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。
