
皆さん、こんにちは。中小企業診断士の赤城正孝です。今回は、東京都が実施する「事業環境変化に対応した経営基盤強化事業」の一般コースと小規模事業者向けアシストコース(以下、アシストコースとします)の比較について、募集要項を読み解きながら解説いたします。
事業環境変化に対応した経営基盤強化事業とは
当事業は、コロナ後の需要回復や消費者ニーズの変化、エネルギー、原材料価格や人件費の高騰などの環境変化に対応するため、創意工夫して既存事業を深化・発展させる取り組みを支援し、都内中小事業者の経営基盤を強化することを目的としています。
小規模事業者だけが申請できるアシストコースと、小規模事業者以外の中小事業者も申請できる一般コースの2つのコースが設定されていますが、コース毎に様々な違いが設けられています。
この違いを理解し、自社にとってどちらのコースが適しているかを判断したうえで、応募することで、支援策の効果を最大限に受けることができます。
以下、重要となる相違点についてまとめていきます。
対象者
まず、対象となる事業者の規模が異なります。自社がどちらに該当するかを確認しましょう。
【アシストコース】
小規模企業者が対象です。 小規模企業者の定義は、常時使用する従業員の数が、製造業・その他で20人以下、商業・サービス業で5人以下の事業者です。
業種 | 常時使用する従業員 |
---|---|
製造業・その他 | 20人以下 |
商業(卸売業・小売業)・サービス業 | 5人以下 |
【一般コース】
中小企業者が対象です。 中小企業者の定義は、以下の表の通りです。「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する従業員の数」のいずれか一方を満たせば中小企業者に該当します。
業種 | 資本金 | 従業員数 |
---|---|---|
製造業、情報通信業(一部はサービス業に該当)、建設業、運輸業、その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
※大企業が実質的に経営に参画している場合は助成対象外です。詳細は募集要項をご確認ください。
申請要件
以下のいずれかの経営状況にあることが要件となります。一般コースのみ、米国関税措置による影響による売上減少が見込まれる場合にも、申請が可能になります。
アシストコース | 一般コース |
---|---|
以下のいずれかに該当すること ア 直近決算期の売上高が「2023年の決算期以降のいずれかの決算期」と比較して減少していること イ 直近決算期で損失を計上していること | 以下のいずれかに該当すること ア 直近決算期の売上高が「2023年の決算期以降のいずれかの決算期」と比較して減少していること イ 直近決算期で損失を計上していること ウ 米国関税措置による影響により、次期決算期の売上高が、直近決算期の売上高と比較して減少することを見込んでいること |
助成額・助成率
助成額と助成率は、コースと賃上げの取り組みによって大きく変わります。特に賃金引上げ計画達成時は、助成率が中小企業者は3/4、小規模企業者は4/5と大幅に引き上げられます。
賃金引上げ計画の達成には、給与支給総額を2%以上増加させ、かつ、助成事業実施場所内最低賃金を地域別最低賃金+30円の水準することが求められますが、従業員の待遇改善を計画している事業者様は、ぜひこの要件の活用を検討してください。
アシストコース | 一般コース | |
---|---|---|
助成限度額 | 200万円 | 800万円 |
助成率(通常) | 2/3 | 2/3 |
助成率(賃金引上げ計画達成時) | 4/5 | 中小企業者:3/4 小規模企業者:4/5 |
審査等
審査プロセスにも大きな違いがあります。
アシストコース | 一般コース |
---|---|
書類審査 | 書類審査、面接審査 |
アシストコースが書類審査のみであるのに対し、一般コースは書類審査に加えて面接審査が行われます。面接審査では、申請書類に基づき事業計画の説明が求められ、審査の結果が一定の水準に到達しない場合、申請は不採択となります。
助成対象経費
申請できる経費の範囲も、両コースで大きく異なります。
(◯:助成対象、×:助成対象外)
アシストコース | 一般コース | |
---|---|---|
原材料・副資材費 | × | ◯ |
機械装置・工具器具費 | ◯ | ◯ |
委託・外注費 | × | ◯ |
産業財産権出願・導入費 | × | ◯ |
規格等認証・登録費 | × | ◯ |
設備等導入費 | ◯ | ◯ |
システム等導入費 | ◯ | ◯ |
専門家指導費 | × | ◯ |
不動産賃借料 | × | ◯ |
販売促進費 | × | ◯ |
その他経費 | × | ◯ |
アシストコースは、設備投資に特化しており、対象経費は以下の3つに限定されます。
- 機械装置・工具器具費
- 設備等導入費
- システム等導入費
一方、一般コースは、上記の3経費に加えて、以下のような幅広い経費が対象となります。
- 原材料・副資材費
- 委託・外注費
- 産業財産権出願・導入費
- 規格等認証・登録費
- 専門家指導費
- 不動産賃借料
- 販売促進費(広告掲載、Webサイト制作等)
販路開拓のための広告宣伝費や、不動産賃貸料なども活用したい場合は、一般コースを選択する必要があります。自社の計画に必要な投資がどの経費に該当するかを事前にしっかり確認しましょう。
応募スケジュール
令和7年度(2025年度)の応募は、一般コースとアシストコースが交互に、年間を通じて複数回実施される予定で、一般コースが奇数月、アシストコースが偶数月といった形で応募されます。
もし一度不採択となった場合でも、事業計画書をブラッシュアップして次の回の公募に再チャレンジすることが可能です。諦めずに計画を磨き上げていきましょう。
(◯:応募が行われる月)
アシストコース | 一般コース | |
---|---|---|
5月 | ◯ | |
6月 | ◯ | |
7月 | ◯ | |
8月 | ◯ | |
9月 | ◯ | |
10月 | ◯ | |
11月 | ◯ | |
12月 | ◯ | |
1月 | ◯ | |
2月 | ◯ | |
3月 | ◯ |
【注意】 応募スケジュールは変更される可能性があり、実際、令和6年度の応募スケジュールは年度内で変更になっています。申請を検討される際は、必ず東京都中小企業振興公社の公式サイトで最新の情報をご確認ください。
どちらのコースを選ぶべきか?
ここまで見てきた違いを踏まえ、どちらのコースに応募すべきか迷う事業者様もいらっしゃるでしょう。以下に判断のポイントをまとめました。
- 投資規模で判断する 助成希望額が200万円以下で、かつ必要な経費がアシストコースの対象経費(機械装置、設備、システム)で収まる場合は、審査が書類のみでシンプルなアシストコースがおすすめです。
- 経費の種類で判断する 広告宣伝費や専門家への依頼費用など、設備投資以外の経費も助成対象としたい場合は、一般コース一択となります。
- 審査の負担で判断する 事業計画の策定や面接審査への対応に不安がある、あるいは時間を割くのが難しい場合は、アシストコースが適しているかもしれません。
ご自身の事業に最適なコースを選択し、この機会を最大限に活用して経営基盤の強化を実現してください。