顧問先から、会計ソフトやCRM、勤怠管理システムの導入費を補助金でまかなえないかと聞かれたとき、税理士事務所様が困りやすいのは、ITの話より先に、この案件が制度に乗るかどうかの切り分けです。中小企業デジタル導入促進補助事業は使い道が分かりやすい半面、対象になるツールと対象外になる経費の線引きがはっきりしています。ここを外すと、見積を集めても話が前に進みません。
この制度は、都内中小企業者等が新たに導入するデジタルツールの経費を一部補助する仕組みです。顧問先の相談では、ソフト本体だけでなく、初期設定、カスタマイズ、運用サポート、周辺機器まで一緒に話題に上がりやすく、どこまでが対象かで認識がずれます。
税理士事務所様の立場では、資金繰りや設備投資の相談の延長で受けやすいテーマです。制度説明だけで終えるより、先に判断軸をそろえた方が案内しやすくなります。この記事では、令和8年度 中小企業デジタル導入促進補助事業について、税理士事務所様が顧問先へ案内する前に見たい判断軸を整理します。基準日は2026年6月2日です。
先に結論

税理士事務所様が先に見るべき点は、次の5つです。
- 新たに導入するデジタルツールか
- ツール本体と関連経費の線引きができているか
- ハード機器中心の見積になっていないか
- 助成率区分と下限額を見落としていないか
- 電子申請と導入後の運用まで回せるか
この5つが整理できていれば、顧問先へ案内する段階での迷いが減ります。逆に、PCの買い替えが主目的の案件、汎用ソフトだけを入れる案件、申請準備が締切直前の案件は早めに見送りや組み直しを判断した方が安全です。
制度の骨子を短く押さえる
まず全体像を短く押さえると、初回の案内で論点をそろえやすくなります。
東京都中小企業振興公社の案内では、この事業は都内中小企業者等のデジタルツール導入に係る経費の一部を補助する制度です。助成限度額は最大150万円で、申請できる助成金の下限額は5万円です。助成率は原則2分の1以内ですが、小規模企業者または環境負荷軽減に資するツールの導入では3分の2以内とされています。
対象になるのは、自社の事業活動のデジタル化のために新たに導入するデジタルツール購入費と、その導入にかかる初期設定、カスタマイズ、運用・保守サポートの費用です。対象例として、クラウド型会計ソフトや業務自動化ツールが示されています。
PC、タブレット端末のようなハード機器や、OS、セキュリティソフト、表計算ソフト、文書作成ソフトのような汎用性の高いソフトウェアは対象外です。制度名だけで判断せず、何を導入する案件なのかを先に言葉にした方が話が早いです。
税理士事務所様が先に切り分けたい5つの論点
ここを先に見るだけで、顧問先との会話がかなり整理されます。
新たに導入するデジタルツールか
最初に見るべきなのは、その案件が新規導入に当たるかです。
この制度は、既に使っているものの更新全般を広く補助する話ではなく、新たに導入するデジタルツールが前提です。顧問先の相談では、古い会計ソフトの継続契約やPC入替えもまとめて補助対象だと思い込んでいることがあります。
税理士事務所様が案内しやすいのは、紙やExcelで回していた経理、受発注、顧客管理、勤怠集計を、今回初めて専用ツールへ移す案件です。反対に、既存契約の延長なのか、新規導入なのかが曖昧な案件は、見積を取る前に整理した方が無駄が出ません。
ツール本体と関連経費の線引きができているか
次に見るべきなのは、経費の中心がどこにあるかです。
対象になるのは、ツール本体に加えて、その導入に必要な初期設定、カスタマイズ、運用・保守サポートです。つまり、設定費や導入支援費も乗り得ます。現場では、ここを知らずにソフト代だけで話を進める会社もあります。
逆に、導入支援だけを切り出して相談されることもあります。制度の中心はあくまで新たに導入するデジタルツールです。税理士事務所様が先に見るなら、何のツールを入れるのか、そのツールがどの業務を置き換えるのか、この2点です。
ハード機器中心の見積になっていないか

この論点を外すと、顧問先の期待と制度の条件がずれます。
案内ページでは、PCやタブレット端末などのハード機器、汎用性の高いソフトウェアは対象外とされています。ここは顧問先が誤解しやすい点です。特に、デジタル化と聞いて、ノートPC、プリンタ、周辺機器の買い替えを中心に考える会社は少なくありません。
例外的に、設備の稼働や故障状況を可視化するソフトウェアを導入する際、その目的達成に必要な専用接続機器がある場合は、条件付きで助成対象に含まれると案内されています。専用ハードウェアにも上限額の定めがあります。一般的なPC購入の話と混同しないよう、税理士事務所様側で早めに線を引いておくと、案内後の食い違いが減ります。
助成率区分と下限額を見落としていないか
金額感の認識が合っていない案件は、途中で失速しやすいです。
本事業の助成率は原則2分の1以内です。小規模企業者または環境負荷軽減に資するツール導入の場合は3分の2以内となります。加えて、申請できる助成金の下限額は5万円です。金額が小さすぎる案件は、そもそも申請ラインに乗りません。
相談の初期段階では、自己負担なしで入れられると誤解しているケースもあります。公社ページでも、その種の勧誘への注意喚起が前面に出ています。税理士事務所様としては、補助されるのは全額ではないこと、対象外経費は自己負担になることを先に伝えた方が話を組みやすいです。
電子申請と導入後の運用まで回せるか
良い案件でも、申請準備と実施体制が弱いと止まります。
申請はJグランツと専用フォームを用いた電子申請です。Jグランツの利用にはGビズIDプライムが必要で、案内ページではアカウント作成に原則2週間程度かかるとされています。締切直前に相談が来た案件は、それだけで難度が上がります。
加えて、採択後には助成対象期間が2年間あり、実績報告書の提出まで見据える必要があります。導入して終わりではありません。顧問先に案内しやすいのは、誰が申請するか、誰が導入を進めるか、導入後の報告資料を誰がまとめるかが見えている案件です。
税理士事務所様から見て案内しやすい案件
案内しやすい案件像を先に持っておくと、紹介判断が速くなります。
例えば、次のような相談は相性があります。
- 紙やExcelで行っている経理処理をクラウド型会計ソフトへ移したい
- 顧客管理や案件管理をCRMにまとめたい
- 勤怠集計や請求処理の手作業を業務自動化ツールで減らしたい
- 新しいデジタルツール導入にあわせて初期設定や運用支援も入れたい
反対に、案内しにくいのは次のような案件です。
- PCやタブレットの買い替えが主目的
- 汎用ソフトだけを入れたい
- 申請額が小さく、助成金下限額に届かない
- GビズID未取得のまま締切直前で動き始める
- 導入後の運用担当者が決まっていない
税理士事務所様にとっては、出せるかどうかを曖昧に伝えるより、通しやすい案件と止まりやすい案件を早めに分ける方が信頼につながります。
連携先を入れた方が前に進みやすい場面
デジタルツールの選定だけで終わらない案件は、早めに連携を入れた方が整理しやすいです。
会計、勤怠、給与、CRMの導入は、ツール選びだけでなく、業務フロー、権限設計、運用ルールの見直しまで触れることがあります。デジタル化全体の整理が必要な場面では、弊所のデジタル化支援のように、制度の話と実務設計を分けずに見た方が案内しやすくなります。
補助金より投資テーマの広さを優先したい案件では、東京都創意工夫チャレンジ促進事業の見方が合うこともあります。顧問先の相談内容が、単なるツール導入ではなく、既存事業の強化や新たな提供方法の導入まで広がっているなら、制度の選び直しから入った方が早いです。

弊所では、社会保険労務士、中小企業診断士、ITコーディネータの視点をまたいで、制度の読み取りだけでなく、導入後の実務まで整理しやすいです。税理士事務所様が顧問先の相談を抱え込みすぎず、役割分担を明確にしたい場面では相性があります。
FAQ
よく聞かれやすい点を先にまとめます。
クラウド型会計ソフトは対象になりますか
案内ページでは、対象例として新たに導入するクラウド型会計ソフトが示されています。既存契約の扱いではなく、新規導入かどうかを先に確認した方が安全です。
PCやタブレットも一緒に申請できますか
一般的なハード機器は対象外です。PC、タブレット端末などは原則として補助対象に入っていません。例外は専用接続機器など条件が限られます。
助成率は一律ですか
一律ではありません。原則は2分の1以内です。小規模企業者または環境負荷軽減に資するツール導入では3分の2以内です。
申請は紙でもできますか
案内ページでは、Jグランツと専用フォームを用いた電子申請のみの受付です。GビズIDプライムの取得も前提になります。
申請額が小さい案件でも出せますか
申請できる助成金の下限額は5万円です。見積規模によっては下限額に届かず、制度に乗らないことがあります。
税理士事務所様は顧問先にどう案内すると話が早いですか
導入したいツール名、置き換えたい業務、対象外経費の有無、GビズIDの取得状況、導入後の担当者、この5点を先に整理してから案内すると話が前に進みやすいです。
税理士事務所様向けの連携相談

顧問先からデジタルツール導入の相談が来ていて、この制度に乗るか、別制度の方が合うかを早めに見たい場合は、初期の切り分け段階からご相談いただけます。会計、勤怠、給与、CRMのように、ITと運用ルールが一緒に動く案件ほど、先に整理した方が後戻りが減ります。
参考: https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/jigyo/digital-tool.html
