子どもが小さいので残業を免除してほしいんです、と告げられた瞬間、頭の中でいくつかの疑問が浮かんだ経営者は少なくないはずです。断れるのか。断れないとしたら、業務はどう回すのか。そもそもこれはどんな制度なのか。
育児・介護休業法には、子を持つ従業員が申請した場合に残業を免除する義務を会社に課す制度があります。制度を知らずに、繁忙期だから、あなた以外に担当できる人がいないから、と断ってしまうと、法律違反になるリスクがあります。本記事では、制度の概要から経営者が取るべき実務対応まで解説します。
所定外労働の制限とはどんな制度か
残業免除の正式名称は、育児・介護休業法に定める所定外労働の制限です。小学校入学前の子を養育する従業員が申請した場合、会社は所定外労働(残業)をさせてはならないとされています。
2025年4月1日の法改正により、対象となる子の範囲が拡大されました。詳細は厚生労働省の公式サイトで確認できます。
主な制度概要は以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象労働者 | 小学校入学前の子を養育する従業員(日々雇用を除く) |
| 申請タイミング | 利用開始の1か月前までに書面で申請 |
| 利用期間 | 1回につき1か月以上1年以内 |
| 回数制限 | なし |
| 対象外(労使協定あり) | 継続雇用1年未満の従業員、週の所定労働日数が2日以下の従業員 |
日々雇用以外の全従業員が対象です。パートタイムや短時間勤務の従業員も含まれます。

会社は原則として断れない
結論から言えば、残業免除の請求を会社が拒否できる理由は、法律上1つしかありません。事業の正常な運営を妨げる場合のみです。
ここで注意が必要なのは、この正常な運営を妨げるという基準の解釈です。
認められにくい理由の例
- 繁忙期だから
- その従業員しか担当できない業務があるから
- 人手が足りないから
- プロジェクトの期限が迫っているから
いずれも会社の事情ですが、それだけでは法律上の拒否理由として認められません。厚生労働省の解釈でも、正常な運営を妨げるとは、その従業員の代替が客観的に不可能な状況のような、相当高いハードルが想定されています。
労使協定を締結していれば、継続雇用1年未満の従業員や週2日以下勤務の従業員を対象外にできます。協定がなければ、これらの従業員の申請も受理する義務があります。
断った場合に経営者が負うリスク

残業免除の請求を拒否した場合、どんなリスクが生じるか整理しておきます。
労働局への申告・是正指導
従業員が都道府県労働局に相談した場合、会社に対して是正指導が行われることがあります。指導に従わない場合は、より強い措置の対象になる可能性もあります。
紛争解決手続きへの発展
都道府県労働局長によるあっせんや調停が申請されるケースもあります。労使間の紛争として処理が進むと、経営者の時間的・精神的な負担は小さくありません。
損害賠償請求
拒否が違法と判断された場合、精神的苦痛に対する損害賠償を請求されるリスクがあります。裁判に至ったケースでは、会社側が賠償を命じられた例もあります。
採用・定着への影響
求職者が育児関連制度を重視する傾向は年々強まっています。残業免除を断ったという事実が社内に広まれば、他の従業員の不信感にもつながります。
現場が回らないと感じる経営者が取るべき対応

法律上の義務は理解できても、うちは人が少ないのに、どうやって対応すればいいのかという悩みを持つ経営者は多いはずです。大切なのは、断る理由を探すのではなく、どう回すかを考える起点に立つことです。
業務の棚卸しと優先度の整理
残業が常態化している職場では、本当に必要な業務とそうでない業務が混在しています。残業免除を機に業務の優先度を整理することが第一歩です。削れる作業、後回しにできる作業、他の人でも対応できる作業を洗い出すと、業務量は思った以上に圧縮できます。
分担の見直し
特定の人に業務が集中している状態は、その人が育児や病気で抜けた瞬間に業務が止まるリスクでもあります。チーム内での役割分担を見直し、属人化を解消するきっかけにしましょう。
効率化ツールの導入
クラウド勤怠管理・給与計算の自動化・チャットツールによるコミュニケーション効率化など、人手をかけずに業務をこなせる仕組みは数多くあります。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や生成AIのツールも、定型業務の削減に有効です。
外注・アウトソーシングの検討
社内でしかできない業務と、外部に任せられる業務を分けて考えることも選択肢の一つです。給与計算・各種届出の作成・採用事務など、専門知識が求められる業務を社労士や専門業者に委託することで、社内リソースを本来の仕事に集中させられます。
就業規則・社内様式の整備
申請書式が社内に存在しない場合、従業員側も申請しづらく、事後トラブルの原因になります。最低限、厚生労働省が提供するひな形を参考に申請書を整えておくことで、運用が円滑になります。
制度を運用することが経営の強みになる
残業免除への対応をやらされていることと捉えると、現場の負担感は増すばかりです。育児中の従業員が働き続けられる環境を整えることは、離職を防ぐ直接的な手段でもあります。
採用コストは年々上昇しています。育児経験を持つ従業員が長く働ける職場は、採用コストの圧縮にも直結しますし、なにより貴重な業務ノウハウを持つ人材の離職を防ぐことができます。人的資本経営や女性活躍推進の観点から、対外的な信頼性を高める点でも有効です。制度整備をコストではなく採用競争力への投資として捉えると、取り組む意味が変わってきます。
よくある質問
Q. 申請書の書式はどこで入手できますか?
厚生労働省が公式サイトで申請書のひな形を公開しています。そのまま使うことも、社内の様式に合わせてカスタマイズすることも可能です。
Q. 残業免除を認めると、他の従業員から不満が出ないか心配です
制度を整備し、公平に運用することが前提になります。就業規則に制度を明記し、全従業員に周知することで、特定の人だけが優遇されているという誤解を防げます。
Q. パートタイム従業員にも残業免除は適用されますか?
日々雇用を除く全従業員が対象です。週の所定労働日数が2日以下の従業員は、労使協定があれば対象外にできますが、協定がなければパートタイムも申請の対象になります。
Q. 2025年4月の改正で何が変わりましたか?
対象となる子の年齢範囲が小学校就学前まで拡大されました。詳細は厚生労働省の公式サイトまたは弊所にお問い合わせください。
まとめ
育児中の従業員からの残業免除請求は、法律上、原則として断れません。拒否できるのは事業の正常な運営を妨げる場合のみで、繁忙期や担当者不足を理由にするのは難しい現実があります。
断った場合のリスクは、労働局への申告・紛争手続きへの発展・損害賠償請求と、経営へのダメージが広がる可能性があります。
唯一取れる手段は、労使協定の締結による対象者の限定です。そのため経営者がすべきことは断る理由探しではなく、業務の棚卸し・分担見直し・効率化・外注化を組み合わせた体制づくりです。
対応方法が分からない、労使協定の締結方法がわからない、就業規則を整備したい、という場合は、ぜひ弊所にご相談ください。初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。
