優秀な社員が突然辞める本当の理由。企業を救う不妊・不育症の職場環境整備と40万円の活用法

最近、あの優秀な社員の有給取得が増えたな・・・。何か事情があるのだろうか。
急な遅刻や早退が目立つようになったけれど、理由は体調不良としか言ってくれない。

経営者や人事担当者の皆様、あなたの職場にこんな社員はいませんか? もしかするとその背景には、口には出せない不妊治療や不育症治療の悩みが隠されているかもしれません。

治療のための通院は突発的になることも多く、スケジュール調整の難しさから、職場に迷惑をかけられないと自ら退職を選んでしまうケースも聞きます。会社にとっても、手塩にかけて育てた優秀な人材を失うことは大きな痛手です。

この見えない退職理由をどう防ぐのか。本記事では、東京都が令和8年度よりリニューアルして募集を開始した不妊治療・不育症治療に係る職場環境整備奨励金の生きた情報をもとに、企業が今すぐ取り組むべき本質的な解決策と、その具体的な実践ステップを解説します。

目次

制度の形だけでなく風土を作ることが人材流出を防ぐ最適解

不妊治療や不育症治療による離職を防ぐ方法は、ただ休暇制度を就業規則に書き込むだけでなく、誰もが気兼ねなく相談でき、柔軟に働ける風土を会社全体で作り上げることにあります。

有給が取りやすいから大丈夫と思い込んでいる企業ほど危険です。治療に対する周囲の理解がない環境では、当事者は本当の理由を隠し続け、やがて精神的・体力的な限界を迎えてしまいます。

東京都の不妊治療・不育症治療に係る職場環境整備奨励金は、まさにこの風土づくりをパッケージ化した制度です。都が提示する5つの取組事項を順番にクリアしていくだけで、社内の意識改革から具体的な制度整備までが自然と完了し、その対価として最大40万円(定額)が支給される仕組みになっています。

出典:不妊治療・不育症治療に係る職場環境整備奨励金(TOKYOはたらくネット)

企業は資金の援助を受けながら、誰もが働きやすい職場を作ることができます。

データが示す4人に1人の苦しみと制度不足の現実

なぜ、企業が率先してこのような環境整備に取り組む必要があるのでしょうか。その理由は、データが物語っています。

東京都のウェブサイトにも掲載されている通り、近年は晩婚化などを背景に不妊治療を受ける夫婦が増加しており、不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は5.5組に1組にのぼっています。働きながら治療を受ける人が増える一方で、実に4人に1人以上の労働者が不妊治療と仕事の両立ができなかったと回答しているという現実があります。また、毎年妊娠される方のうち数万人が、流産や死産を繰り返す不育症の可能性があるとも言われています。

出典:病気治療・不妊治療と仕事の料率(東京都産業労働局)
出典:不妊治療と仕事との料率サポートハンドブック(厚生労働省)

不妊症や不育症の検査・治療は、特定の周期に合わせて頻繁な通院が必要になるなど、時間を要することがほとんどです。先の見えない治療による精神的な負担、ホルモン剤などによる体力的な負担、仕事の同僚への罪悪感。これらが三重苦となって労働者にのしかかります。

企業が不妊・不育症治療を仕事と両立すべき大切なライフイベントと捉え、休暇制度やテレワークなどの環境を公式に整えることで、社員は安心してキャリアを継続できます。こうしたバックアップが一人ひとりの孤立を防ぎ、長期的な活躍を支えることになります。

最大40万円支給。審査を確実に通すための5つの実践ステップ

では、具体的に何をすれば良いのでしょうか。東京都の奨励金では、以下の5つの取組事項をすべて、かつ指定された順番通りに実施することが求められます。

支給額は、新たに不妊治療・不育症治療のための休暇制度等を整備する場合で40万円。既に不妊治療の制度がある企業が不育症治療の制度を追加整備する場合で10万円となります。

ここでは、公募要領から読み解いた実務上の条件や注意点を解説します。

ステップ1 社内意向調査の実施

まずは全従業員(雇用形態を問わず都内に勤務するすべての人)を対象に、現在の制度等に関する社内意向調査を実施します。無記名でも構いません。現状の課題を吸い上げることが第一歩です。

ステップ2 社内相談体制の整備

次に、社内に相談員を任命します。ここでのルールとして、都内に勤務する常用労働者(入社6ヶ月以上など条件あり)を2人任命し、原則として男性1人以上・女性1人以上とする必要があります。

相談員は、東京都が提供する研修動画(卵子凍結の基礎知識や人事労務管理のポイントなど)を視聴し、正しい知識を習得します。相談員が退職や休職で不在になった期間が生じると、奨励金は対象外となりますのでご注意ください。

ステップ3 不妊治療や不育症治療のための休暇制度等の整備

就業規則や付属規程に、治療のための休暇、または休業制度を明記します。

休暇制度の場合

不妊治療で年間5日以上、不育症治療で年間5日以上。頻繁な通院が必要な場合は、それぞれ追加で5日以上取得できるようにし、必ず有給とすることが必須条件です。

休業制度の場合

有給・無給は問いませんが、それぞれ1年以上取得できるように定めます。

なお、従業員数10人未満の会社であっても、本奨励金を受けるためには必ず管轄の労働基準監督署へ就業規則を届け出る必要があります。

ステップ4 テレワーク制度等の整備

柔軟な働き方を実現するため、モバイルワーク、在宅勤務、フレックス制、時差勤務などのうち1つ以上を整備し、同様に労基署へ届け出ます。

ここで注意すべきは時差勤務です。単に休憩時間を延長して拘束時間を伸ばすだけのものや、シフト制は時差勤務とみなされません。必ず始業時刻と終業時刻を両方とも繰り上げる、または繰り下げる制度として明記する必要があります。

ステップ5 社内説明会の実施

ステップ1〜4が完了したら、全従業員を対象に1回以上の社内説明会を実施します(30人以下の企業は全員出席必須、30人超の企業は30人以上の出席が必要)。

説明には東京都提供の社内説明会用資料を使用することが絶対条件です。オンラインでの実施も可能ですが、ライブ配信での参加のみが出席とカウントされ、アーカイブ視聴は認められません。実績報告時には、出席者全員の顔と資料が確認できる遠景写真と近景写真の提出が義務付けられています。

副次的なメリット

本奨励金の事業に取り組んでいる中小企業は、東京都の中小企業制度融資・女性活躍推進融資(TOKYOウィメン・ビズ・サポート)の対象となります。これにより、信用保証料の2/3補助や利率優遇を受けることが可能になります。40万円の奨励金以上の財務的メリットを受けられる可能性があるため、経営者にとっては見逃せないポイントです。

TOKYOはたらくネットから事前エントリーを

不妊治療や不育症治療のサポートは、個人のデリケートな問題にとどまらず、企業が競争力を維持するための重要な経営課題です。制度を整え、誰もが安心して相談できる風土を作ることは、離職防止だけでなく採用力の強化や従業員エンゲージメントの向上にも直結します。

令和8年度の不妊治療・不育症治療に係る職場環境整備奨励金は、年間に3回の事前エントリー受付期間が設けられています。

  • 第1回:4月24日~5月8日(予定110社)
  • 第2回:5月27日~6月4日(予定110社)
  • 第3回:8月25日~9月2日(予定80社)

この事前エントリーは先着順ではなく、予定数を上回った場合は抽選になります。また、事前エントリーは東京都産業労働局のTOKYOはたらくネット上の専用フォームから直接申し込む必要があります。

優秀な社員から、実は不妊治療と仕事の両立が難しくて・・・と退職願を出される前に。

まずは以下のURLからTOKYOはたらくネットにアクセスし、自社が要件を満たしているか確認の上、事前エントリーを行ってください。

不妊治療・不育症治療に係る職場環境整備奨励金(TOKYOはたらくネット)

弊所では、法的な不備のない就業規則の整備から、煩雑な奨励金の申請手続きまでお手伝いしております。初回相談は無料ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

人事労務のデジタル支援パートナー。経営者の「時間が足りない」という課題を解決する専門家で、経営者が将来を見据えた舵取りに専念できる時間を創出する仕組みづくりを得意としています。企業内部に深く入り込み、共に汗を流しながら課題解決に取り組むスタイルが特徴です。社会保険労務士・中小企業診断士・ITコーディネータ・医業経営コンサルタント

目次